零れ落ちたる余り子は

<創作> <読み切り> <ファンタジー> <掌編/文字数:300文字>

公開日:2020/03/07
Twitter300字ss企画(Web企画投稿作品再録)
お題:余り


「片付いたか?」「はい殿下」
 蹂躙された村跡地で、農奴の成りをした若者が応じる。
「全く、愚王の胤が秘されていたそうだが、斯様に手応えが無いならば下女らでも事足りたな」
 誰もが嘲弄する中、若者は口を引き結んだまま。
「折角の士気が下がるだろ」
 気分を害した男は若者を手打ちにすべく得物を握る。
「貴様、名は?」
「……零余子(むかご)に御座います」
 若者は言うなり手近の騎士から剣を奪い男に詰め寄り、その首を刎ねた。長を喪った騎士団なぞ最早彼の敵ですらなく、次々と斃れ伏していった。

 討滅の後、森に潜んでいた村人達が駆け寄った。
「済まない、妾の子ですらない俺のせいで」
「何を仰られます。さあ、今こそ芽吹きの刻限です!」

<END>