最後の銃弾

<創作> <読み切り> <サスペンス> <掌編/文字数:300文字>

公開日:2019/03/02
Twitter300字ss企画(Web企画投稿作品再録)
お題:涙


「決めた。僕が悲しいことを消してみせる」
 瓦礫の中、偶然見つけた童話集を二人で読んだあの夜からどれほど経ったのか。

 扉を開けた先に、気味の悪い笑みを浮かべて奴がいた。
 一切の負の感情を消し去る新薬。それを奴は開発し、この国全土にばら撒いた。人々は度重なる戦乱の恐怖から逃れるためにそれに頼り、やがて一切の人間性を失い享楽にふけるだけの肉と化した。
 奴に銃口を向けた俺は、あの夜共に読んだ童話の一節を思い出して苦笑した。

 ある金持ちの家に息子が生まれ、多くの妖精達が幸福の真珠を贈る話なのだが、最後に贈られたのは悲しみの妖精が流した涙の一滴だった。

『人間は悲しみを知ることで、他人にも自分にも優しくなれるのです』

<END>
 アンデルセン童話の「最後の真珠」から着想を得て。