明日もまたシチューらしい
<創作> <読み切り> <ホラー> <掌編/文字数:300文字>
公開日:2018/08/04
Twitter300字ss企画(Web企画投稿作品再録)
お題:帰る
やれやれ、明日もまたシチューらしい。
外にいると、その温度で容赦無く人間を殺しそうな空気にすっかり参ってしまう。これではまるで……いや、止めよう。
玄関前に立つと、野菜の煮込まれた甘い香りがした。扉を開けるとやはり台所にはシチューの入った鍋がある。
「お帰りなさい!」
そう言って妻が振り返る。
「お帰りじゃないだろ」
疲れ切った俺は彼女を抱き寄せた。
「良いか、『かえる』場所はここじゃないんだ」
全身が炭化した彼女の背を、同様に炭となり部分的に欠けた己の指で優しく擦る。
「もう、火事のあった晩を繰り返すのは止めにしよう」
そう諭しても、彼女は意固地に夕食の支度を始めようとする。
やれやれ、明日もまたシチューらしい。
<END>
お題を聞いたとき、山崎まさよしさんの「おうちへ帰ろう」が頭の中に流れたのに、どうしてこうなった?