遊びのある道程味

<創作> <読み切り> <日常> <掌編/文字数:300文字>

公開日:2018/05/05
Twitter300字ss企画(Web企画投稿作品再録)
お題:遊び


「久々に来たんだから農作業手伝え!」
 田舎に着いて早々祖父にそう命じられ、俺は渋々と軽トラの助手席に乗り込んだ。シートはボロボロ、ダッシュボードは脂臭く、俺が以前駆っていた車とはえらい違いだ。
 農道を往く祖父のハンドル捌きを何となく眺めていた俺は、次の言葉に思わず心臓が止まりそうになった。
「どうだ、帰りは久々に運転してみるか? ハンドルには遊びが必要なように、人生だって多少寄り道とかも要るもんだぜ」
 思わず苦笑いを返し、火傷塗れの己の手を見やる。

 遊び設計のなされていないFIカーを操作する日々は、充実していたが緊張の連続だった。

 たまには、こういう寄り道も悪くはないだろうと、俺は祖父の煙草を一本拝借した。

<END>