とある恋人の白いかさ

<創作> <シリーズ:とある恋人~> <恋愛> <掌編/文字数:300文字>

公開日:2017/06/03
Twitter300字ss企画(Web企画投稿作品再録)
お題:かさ (⇒「暈」に変換)」


 トラブルで、篤志が最寄駅まで戻ったのは23時を過ぎてのこと。駅から自宅までは自転車で15分だが、彼の自転車は今朝パンクして修理に出したまま。最終バスも5分前に行ったばかり。最近はツキが無い。
「アツシさん!」
「ユキ!? どうして……」
「予約の無いお客さんが閉店間際に入って、片付けもしていたら……携帯には一応連絡したんだけど」
「悪い、電池が切れた」
「今日はお互いツキが無いね」
 横についた結樹が苦笑して空を見上げるとその動きが止まった。何だろうと視線の先を向くと、月に白くぼんやりとした輪がかかっている。二人して、しばらくこの天体ショーに見惚れていた。

 月にかかる白い暈。

 これを見た者には、幸せが訪れるという――。

<END>
 文中に出てくる「月の輪」ですが、「月暈(つきがさ、げつうん)」という現象で、月に薄い雲がかかることで光が乱反射する天体現象です。文中で出てきた以外にも、これが出ると雨が降るとか色んな言い伝えがあるそうです。