とある探偵の昼下がり

<創作> <シリーズ:とある探偵と花の魔女> <ギャグ> <掌編/文字数:300文字>

公開日:2015/05/02
Twitter300字ss企画(Web企画投稿作品再録)
お題:匂い(薫・臭いでも可)


 智也はその時だいぶ悩んでいた。ジャケットを掴み、溜息を漏らす。まさか自分ともあろうものがこんな凡ミスを犯すとは……。兎に角、先程の痕跡を急いで消さなければ。
 そう思い、周囲を見回すと一件の喫茶店が目に入った。
 しばらくあそこで身を隠すしかないな。そこの看板娘は馴染みだから此方の事情を察知して匿ってくれるだろう。今は一刻も早くこのにおいを消すことを考えなければ……。
 ドアを開けると、珈琲の芳しい香りに満ちている。彼はカウンターに座り、ブレンドを注文する。後は、ここで暫く時間稼ぎをすれば……。
「あれ、今日は一人で用事があったんだろ?」
 奥の手洗いから、彼が今最も会いたくない相手が出てきた。此方の不自然な様子にいち早く気づき、横に座ると、襟元に顔を近づけてきた。蒼い双眸が彼を捉える。

「……君、お昼は焼肉だっただろ。一人だけで食べてきたのか」

<END>